(記:根本 昌彦)
昨年12月、デンマークで開かれたCOP15に参加した。各国の利害対立が顕在化して成果に乏しいと評される会議だったが、日本であまり報道されて いない点として、オバマ大統領をはじめ、世界の首脳達が直接、深夜に及ぶ議論に参加して具体的な合意文書を練り上げたこと(セレモニーではない!)、会場 内外合わせて10万人規模の人々が交渉の進展を要求して運動したこと(市民は醒めてない!)等、多くの人に知って欲しい新しい動きがあった。
吸収源関連の交渉では3点ほど指摘しておきたい。第1に今や日本林政の枕詞になった「目標6%のうち3.8%を達成するため云々」という話は、国 際的には削減義務をごまかす「抜け穴」と認知されていること。吸収量全体を算定する現行の「グロスネット方式」に対して、基準年に対する増減を算定しよう と提案されている「ネットネット方式」は言わば抜け穴防止策。今回は議論の進展が無かったが、この方式が採用されれば、日本の削減義務の中で森林が貢献で きる比率は著しく減少し、近い将来、成長量が頭打ちになる国内森林は排出源になる。
第2には木造住宅などを炭素貯留場として算定したい日本が期待するHWP(伐採後の木材製品)は、輸出入や排出のタイミング等ルール化が困難な面が多く、あまり議論がされてないこと。過度の期待は禁物である。
第 3はREDD(森林減少・劣化からの排出削減)が実現味を帯びてきたことだ。モニタリングなど技術的な問題や、現場の土地利用実態との調和等の課題もある が、森林減少が世界の排出量の約2割に相当すること、あるいは、森林減少に対するこれまでの無策ぶりを前提とすれば、REDDへの期待は大きくならざるを 得ない。
期間中、隣国スウェーデンを視察したが、同国では温室効果ガスを2020年に90年比40%(2千万CO2トン)削減(エネル ギーの5割は再生可能エネルギーで!)することや2050年までに国全体をカーボンニュートラルにする等としている。再生可能エネルギーのうち、今後の伸 びが最も有望なのが森林資源を利用したバイオマスであり、脱原発を段階的に追求する同国の切り札にもなっている。
日本と同様の国土面積・ 森林率だが、既にエネルギー供給の3割は森林資源が活かされている。バイオ燃料が拡大した背景には、数百個程度の住宅を対象にした地域暖房が普及して、都 市部では最も一般的な暖房システムとして定着したこと、あるいは、木材産業が発達したことで、いわば副産物としての木質燃料の供給が産業的に可能になった こと等が挙げられる。地域暖房用の燃料は9割が木質であり、それには立木伐採時に出る端材(枝や木材先端部など)、製材工場やパルプ工場から出るバークや 鋸屑、パルプ化の工程で出る黒液などが利用されている。また、木材のペレット化によりハンドリングも容易になっている。スウェーデン国内に90以上のペ レット工場が、約200万トンに上るペレットを国内市場に供給している。
日本でも森林のバイオ利用への関心は高まっているが動きが遅い。国産材自給率50%を目指す森林・林業再生プランも良いが、実現のためには大量搬出が見込 まれる間伐材の出口対策が急務である。過剰材が木材市場の値崩れを引き起こさないためにも、バイオ燃料がうまく供給を飲み込むような体制作りが必要だ。