イギリス発のバイオマス発電急増が世界の森を食い尽くすか?

2011年 10月 01日 15:35
~世界の森林資源への影響懸念するNGOが警告

(記:根本 昌彦)


以前私のブログ記事で(http://foreststudy.com/europe/140-biomass-england.html)、バイオマスエネルギーへの傾斜が持つ危険性を環境NGOが警告していることを紹介した。バイオマス利用の増大が、地球的な視点からみると、最貧国にお けるバイオマスのための植林地の拡大と、それによる最貧民層の土地からの排斥につながるという警告だ。今回はRSPBリポートの紹介。イギリスのバイオマ ス発電の拡大と資源問題について、より具体的な情報を提供してくれている。実際、イギリスでは、バイオマス発電所の建設ラッシュになっていて、発電のため の木質燃料が近いうちに激増することが明らかになっている。当初はアメリカ、カナダ、ロシアなどから、持続可能な形で資源の入手が可能だが、世界各地で同 様のプロジェクトが進展すれば、資源獲得競争が世界の森林資源の収奪を加速させ、結果、気候変動を悪化させることが予測される。


バイオエネルギーに関する特集を組んだ野鳥保護王立協会(RSPB)リポートが先日公表された。リポートでは、急拡大するイギリスのバイオマス部門、特 に、木材や有機物残渣などを原料にエネルギーを作る発電所などに関して分析している。その分析によれば、イギリス政府はバイオマスを強く支持しており、将 来の再生可能燃料として期待しているが、その結果は、再生可能エネルギーへの補助金を産業側が搾取的に利用しながら、海外の森林を伐採していくことによ り、地球環境的には破滅的な状況に陥るというものだ。

現在、イギリス国内では31のバイオマス発電所が稼動しているが、さらに39のバイオマス発 電所が建設予定である。それぞれが、計画から完成までの異なる工程の中にある。その中には、本ブログ欄5月31日付け記事で紹介したエセックス、ティルベ リーの石炭火力発電所をバイオマス発電所へ転換する計画も含まれる。同発電所は発電容量が750メガワット規模で世界最大のバイオマス発電所となる予定で ある。いずれにしても、これら39の発電所が全て稼動することになると、年間に必要になるバイオマスは現在の10倍の5千万トンになるとみられている。こ れは日本の年間木材需要量に匹敵する量である。

ということで、増大傾向にあるイギリスの木材輸入量に環境NGOは神経をとがらせている。現 在、バイオマス燃料に占める輸入バイオマス量は13%だが、これが68%にまで増大するとみられる。木材輸入量だけで、イギリスにおける現在の木材生産量 の3倍に相当する規模になるというのだ。


RSPBの保護部門の部長をしているマーチン・ハーパー(Martin Harper)氏は言う。「私たちの調査で明らかになったことは、バイオマス発電は瞬く間に拡大しており、これが野生生物や気候に対して重大な影響を及ぼ す可能性があるということです。・・・そして、このバイオマス輸入量の増大が、政府が宣伝する環境に優しい緑の補助金を、発電所を経営する企業が利用する ことで可能になるという点も見逃せないのです。ある意味、典型的な政府(補助金)の失敗例になると思います。政府首脳はこの過ちに早く気づき、補助金を カットして、より確実な持続可能性を持ったバイオエネルギー計画や、風力発電など、他の再生可能エネルギーの推進へと振り向けるべきだと思います」と。


「バイオマス発電所にはイギリス国内で生産される木質燃料のみを使うことが本来のあり方で、国内で良好に管理された森林から持続的に生産される木材や、現 在大量に出ている残材、あるいは農業生産の過程で出る副産物などをもっと使うべきです。・・・現在計画されているイギリス国内のバイオマス発電所では、木 質燃料の輸入量として3,300万トンを見込んでいます。主にカナダ、ロシア、アメリカから輸入する予定のようです。・・・しかし、私たちは状況が変われ ば、その他の国々からも木質燃料を輸入しなければならないような事態に直面するだろうとみています。そうなれば、世界の生物多様性に富んだ森林も標的にな る可能性があるのです」と。


「私たちは、再生可能なエネルギーを見つけなければなりません。非常に本質的な話です。それにより、石炭や石油などの化石燃料依存から脱却する必要がある のです。しかし、私たちのRSPBリポートでも示したように、再生可能だということで輸入木材を大量に燃やし始めれば、やがて私たちは意図に反して環境へ の反逆者になってしまうということを自覚する必要があるのです」と。


RSPBリポートは、最後に次のことを提案している。国内の木質燃料の利用を増加させること。その資源として密度が過剰になった森林を適切に間伐すること で出てくる間伐材を活用すること(日本に類似!)。こうすることで生まれるおまけとしては、ナイチンゲールやウィロウ・ワーブラー(willow warbler)、マーシュ・ティツ(marsh tits)のような林内を好む野鳥や林内性の蝶(woodland butterfly)に良い生息環境を提供することも可能になるという。


また、2009年の実績では埋立地に運ばれた木質残材は600万トン、食料の残渣は900万トンに及んだという。こうしたものを含めて、国内の林業、林産 業、農業、食品業界などからエネルギー資源を回収することが重要とRSPBリポートでは提案している。さらに、RSPBリポートでは政府に対し、再生可能 エネルギーへの補助金政策の見直しを訴えている。上述のように、輸入木質燃料への補助金をカットし、国内のバイオ資源等へ振り向けることなどを提案してい る。


参照:RSPBリポートについて

http://www.rspb.org.uk/news/288724-study-exposes-green-failings-of-wood-fuel-power-plans-