自然災害と原発事故と環境倫理

2011年 05月 15日 09:46

(記:木俣 信行)


● 東日本大震災と科学技術の課題

2011年3月11日は日本人として当然ですが、私にとっても終生忘れることの無い日になりました。この日テレビから流れる、小松左京の小説「日本 沈没」による映画の炎を上げて沈みかかる国土を思わせる映像には、正に信じられない思いでした。被災された方々、亡くなられた方々に心から哀悼の意を表し ます。


この災害は、人間の想像力の限界と、学習継続の困難さを改めて教えてくれています。今回、建築的な面での耐震対策は、ある程度の効果が得ら れていたと見られます。しかし津波への備えは、科学的な予測が十分に対応出来なかったようです。地殻プレート同士のぶつかり合いと言う複雑な動きを扱う科 学にとって、今後乗越えるべき課題は大きいことがうかがえるものでした。

予想される最大津波高さへの備えをしていた三陸の港町からの報告からは、海とともに生きる人々の覚悟がよく分かるものでした。それでも過去の経験を 基に高台に住居を移していたものが、時間の経過とともに再び海岸近くに市街地が戻ってきていたと言う事実は、人々の日常の暮らしと遊離した防災対策が長続 きしないことを教えています。今回も、高台に住居地域を移すという復興計画案が語られていますが、それだけでは100年、200年後には再びまちが海岸傍 に戻ってくることが想像されます。

日常生活の利便の確保と巨大津波に安全な生活環境の形成と言う2つの命題に、同時に応える解決策をどのように用意できるか、正に科学技術、そしてそれに基づく政治と行政は、鼎の軽重を問われていると言えましょう。


● 福島原発事故と原発推進の罪

今回、自然災害が巨大な破壊力を持つことを改めて思い知らされましたが、同時にわが国の原子力政策の、明らかな誤りも詳らかにしました。世界で唯 一、原子爆弾による放射能汚染を経験し、二度とこの悲劇を繰り返すまいと誓ったはずのわが国が、再び放射能汚染に怯える状況を作ってしまったことを、私た ちは広島、長崎での原爆で命を落とした多くの人々に、どのように詫びたら良いのでしょうか。

彼等の尊い命で購った平和が、軍事的戦争ではなく経済戦争の中で実は風化してゆき、エネルギーを得るためには放射能の危険も顧みないと言う決断をし てしまった。それは、石油と言うエネルギー源を失うことを恐れて人々の生命を省みず太平洋戦争に突入し、アジアで何百万人と言う犠牲者を出した第二次世界 大戦の再現とも言えましょう。そこには、経済的発展や自らの欲望の充足のためには、それによって危険に晒される人々の生活や幸福は無視する、軽んじるとい う価値観と行動があり、敗戦や被爆の本質的な意味について何も学ばなかった、愚かしく欲にまみれた人々の姿があります。

また、福島原発事故に対して柳田邦夫が厳しく指摘するように、原子力発電所の建設を絶対として、それが成立するように様々な条件を想定するという、 順序が逆の論理が罷り通った原子力推進の実態があります。恣意的に設定された想定外の事態には、何の対策も講じなかったことに倫理的な責任を感じず、恥と も思わない人々の存在があります。

この半世紀、手段の目的化が日本の社会をまかり通っています。エネルギーは本来、人間の生活を豊かに、そしてそれにより、満たされ幸福な暮らしを実 現するための手段です。経済も当然、手段でしかありえません。従ってその手段が、人々の生活に危険を及ぼし、人々に不幸を齎す可能性については、何にも置 いて排除しなくてはならないはずです。それを、原子力産業を振興することを目的にしてしまったために、その危険への対策については、経済的に他のエネル ギー源との競争に堪える範囲に止めた、と言うのが今回の福島原発災害を齎した原子力政策の本質です。

チェルノブイリでは、多くの人々が後遺症に苦しみ、また膨大な広さの国土と生活の場が失われてしまいました。原子力発電を更に推進するのであれば、 こうした放射能汚染事故の発生に対して、その汚染が継続する限り、現状と同じ人々の生活が継続できるような対策を用意すること、市民生活や産業への風評被 害も含めて起こりうるあらゆる問題、そして世界を不安に陥れないための対策についても十分の備えをしておくことは不可避の要件でしょう。そうした備えをし て初めて、他のエネルギーとの公正、公平な競争と言えましょう。

原子力発電で得られた電力で快適な生活が出来ると考える私たちも、その意味では今回の事故の加害者です。次世代の人々の生活を危険に晒しながら現在 の生活を楽しむことは、現世代の人々の罪とも言えましょう。次世代を越えて人々が安心して暮らせる世界をつくるために、多少お金はかかっても地球規模で 人々の安心・安全な生活が継続できるよう、再生可能エネルギー主体のエネルギー利用へ転換を急ぎたいものです。

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