(記:三野 徹)
いま、わが家ではミツバチの話題でいっぱいです。今年の春に設置しておいた巣箱にやっとミツバチが居着きました。毎日、ハタラキバチがせっせとど こからか花粉と蜜を運び込んでいます。本年は庭に二個の巣箱を設置したのですが、二個とも巣を作り始めました。 昨年、自宅近くのコンクリートブロックの隙間に日本ミツバチが巣を作り、蜜を運んでいるのを家内が見つけ、手作りの巣箱を近くにおいたのですが、ミツバチに全く無視されてしまいました。今年はあの手この手でミツバチの呼び込みを行い、やっと入居に成功しました。日本ミツバチは意外と気むずかしい昆虫のよう です。
私自身はただ見ているだけですが、近所に住む大学の同級生の友人がいろいろ頑張ってくれました。彼の家の巣箱にはすでに昨年来ミツバチが住 み着いています。カメラを入れて観察した結果では巣箱には数段に及ぶる巣が作られているとのことです。その彼ですら、わが家の巣箱にミツバチを誘導するのに苦労していたようです。わずか数百メートルしか離れていないにもかかわらず、微妙な環境の差によってミツバチは全く異なった行動をとるようようだと彼は 言っています。彼は金陵辺という蘭の花を使ってわが家の巣箱にミツバチを呼び込むことを試みて成功しました。今では、家内はすっかりわが家のミツバチの虜 になり、毎日観察を続けています。
わが家の巣箱の外観 | 同じ型の巣箱の内部写真(友人からの提供) |
私は単なる傍観者ですが、今では、わが家のミツバチの話を家内から毎日聞かされながら、様々な想像を巡らすようになりました。家内の話によると日本ミツバ チが集めた蜜の味は、一般に市販されている西洋ミツバチのそれとは異なって、ほのかに木の香りがするとのことです。そういえば、日本ミツバチがせっせと花 粉や蜜を集める時期は、わが家の周辺でクリやクヌギの花が咲く頃です。近所の養蜂業者の方にお聞きすると、日本蜜蜂と西洋ミツバチは行動する範囲が競合し ないとのことです。ちなみに、ミツバチを本格的に飼うとなると近隣の養蜂業者の了解を得なければならないとのこと。また、行政上の窓口は府県の畜産課だと 聞いて、何となく納得した次第です。
さて、日本ミツバチですが、縄文時代から飼われていたということです。縄文時代の食料の一つとしてよく紹介さ れています。ドングリなどの堅果を中心にした主食のクッキーに、蜂蜜をかけて食したといわれています。考えてみますと縄文時代は人と自然がもっとも調和し て生きていた時代です。自然から採取した食料が生きていくための唯一のカロリー源であったのですから、人間は自然と調和して生きていくしかなかったわけで す。そのに、稲が大陸から伝わり、弥生時代以後、わが国は稲という作物が食料の中心となってきました。しかしながら、古代や中世ではまだ縄文的要素が食生 活に深く入り込んでいたといわれています。現在みるような米が中心になるのは近世以後で、とくに米の反収が急増する近代に入ってからといわれています。す なわち、米を中心にした食生活はわずか100年余りしか経っていないといえます。日本ミツバチの蜂蜜は、いま、健康食品として大きな注目を集めています。 自然と最も調和して人々が生活していた縄文時代から食べられてきた日本ミツバチの蜜は、わが国の自然に最もなじんだ食材といえるのかもしれません。
日本ミツバチはいったん棲み着くと後は全く世話がいらないといわれています。このことは、数万年といわれるわが国の縄文時代を通してわが国の自然生態系にう まく順応して生き延びてきたと考えられます。すなわち稲作以前のわが国の原自然、とくに稲作が伝来する以前の自然生態系ともうまく調和していた考えること ができます。一方、それに対して西洋ミツバチは、原野に咲く野の花や、畑や果樹園に咲く花のような作物との相性が良く、また、人の手によって導入されたと いう経歴から想像できるように、人による保護が必要で、人と共生・共存しなければ生きていけない昆虫と思われます。日本ミツバチは西洋ミツバチとは違っ て、われわれ人間とは異なった独特の感性を持っていると考えられます。
いま、わが国にミツバチをもたらした友人と私の家内がもっとも頭を悩まして いるのは、気まぐれなミツバチが逃げ出さないか、また、天敵であるスズメバチとアリから、いかにしてミツバチを守るかです。日本ミツバチは敏感に環境を感 じ取る能力に長けているように思えます。このことは自然環境の変化をとくに敏感に感じ取る能力を持っていることを意味します。しかも、ミツバチの行動範囲 は巣箱から数kmに及ぶといわれます。わが国の自然環境、とくに森林地域の環境をモニターする上できわめて興味深い特性を持っていると考えられます。日本 ミツバチは余り手が入っていない自然の森林、とくに生態系が多様で複雑な広葉樹林の環境モニターに利用できる可能性を持っているように思われます。